進化生物学への道―ドリトル先生から利己的遺伝子へ
長谷川 眞理子

定価: ¥ 1,890
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発売日: 2006-01
発売元: 岩波書店
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一人の科学者の決意
この本を一気に読んで長谷川先生が授業や学会でおっしゃっていたことの真意がよく分かった。
今でこそ日本でもホットな学問分野となった行動生態学、進化心理学であるが、これは先生が若い頃になさった研究と数々の著書・訳書の成果であると思う。パイオニアであるが故(また女性であるが故)の苦悩とそれを乗り切ってきた気概とが伝わってくる内容である。
この本を読めば先生の歩んできた道筋と、世界と日本の行動生態学の変遷が分かる。今でこそ教科書にまとめられていることも、10年前まではあまり知られていなかったことに驚かされる。この半世紀の進歩は凄まじかった。
しかし、この本にも書あるように進化生物学の世界では常識となった種の保存の誤解(群淘汰の誤り)などが一般レベルのみならず他分野の生物学者にもまだ正しく理解されていないという現実がある。私自身も大学の教員と話していて感じるし、時に行動科学というものを科学と認めようとしない姿勢も見受けられる。そう判断しているのは己が進化生物学に関して無知だからということにも気付かずに!
こういう状況を考えると、先生がなぜ今まで研究施設を持たない政治経済学部で文系学生に生命科学の授業をしていたかがよく分かる。確立された分野とはいえ正しい伝承と啓蒙が必要だったのだ。
だが今年、先生は一つの決断をなさったようだ。
科学者として再び研究に専念する。そして後継者を育てる。
「動物の行動の生態、進化の研究が、結局のところ最終的に私を導いてきたところは、人間とは何かであった。まったく新しい総合人間科学というものを目指そうなどと大きなことを考えている。」
この一言を本気で言えた科学者がどれくらいいただろうか。
これほど有名になってもなお悩み、決断し「大ガラス海カタツムリ」を見つけ出していく姿勢をこの本を通して知った若き研究者や学生は、きっと自分の「新たな冒険」を見つけ出せると思う。
すでに私も。
グーテンベルクの森シリーズの一冊.上品な自伝的エッセー.
著者が子供の頃から行動生態学者として活躍している現在までを振り返りながら,そのときそのときに出会った書物を紹介していくもの.
子供の頃の図鑑,少女時代に読んだドリトル先生シリーズの思い出がまず語られる.ドリトル先生シリーズの今読んでみて面白い英国式のユーモアの紹介とかが楽しい.また航海記でクモサル島の王様になったドリトル先生が研究生活に戻るのか王様を続けるべきなのか悩む場面を振り返りつつ,現在各種審議委員を務めているために研究の時間がとれない悩みをダブらせて,自分の”オオガラスウミカタツムリ”を見つけなければとぼやくところも味がある.
その後は研究者に進んでから影響を受けたいろいろな本が紹介される.著者が体当たりで好きな生物と進化について研究したいと切り開いてきた人生模様との対比が味わい深い.昔の学会が最新の学説をなかなか受容しないところとか,アフリカ,ロンドンでのポスドクの研究成果をもってしても就職が非常に困難だったことなど所々の本音のぼやきがなかなかいい味を出している.あとがきでついに自分の”オオガラスウミカタツムリ”を見つけたみたいだと語るところもおしゃれである.
紹介されている本も生物学に興味のある人には面白いものが多く,研究者を目指す人には特に推薦したい.